モデルに含まれるもの
プラントは CCM 降圧の状態空間平均モデルです。L·di_L/dt = d·V_in − v_out − i_L·R_L、C·dv_C/dt = i_L − i_load で、出力電圧はコンデンサと ESR の両端から取ります。積分は 4 次ルンゲ・クッタ法で周期あたり 8 ステップ行います。スイッチングリップルはなく、見えているのは各周期の平均値です。制御器がサンプリングするのも結局はその値です。
制御器は周期ごとに v_out を 1 回読み、u = Kp·e + Ki·∫e + Kd·d(−v_out)/dt を計算し (微分には 1 次フィルタ)、1 V の PWM ランプで割ってデューティを 0 … 0.95 に制限します。結果は次の周期に適用されます。この 1 サンプル遅延と PWM のゼロ次ホールドがループ情報に示した 1.5·T_s であり、使える交差周波数が f_s の一部にとどまる主な理由です。
既定の 4.7 µH、100 µF では LC 共振が 7.3 kHz、3 A での Q が約 5.7 です。単純な PI では共振より上の交差周波数を安定化できません。そこではプラントがすでに約 180° 遅れ、積分器がさらに 90° を加えるからです。位相進みを作るのは微分項で、これは Type III 補償器の 2 つのゼロが果たす役割と同じです。Kd を 0 にしてループが再び安定するまで Kp を下げてみると、帯域幅で払う代償が見えます。
リンギングから位相余裕を読む
プリセットは制御器の 2 つのゼロを交差周波数の 1/6 に置き、目標の余裕が得られる交差周波数を探索します。55° と 25° のプリセットの負荷急変からの復帰を比べてください。25° では戻る途中で基準値を行き過ぎ、ほぼ交差周波数で数周期リンギングします。見える振動回数は余裕が減るほど増え、0° 付近では振動が減衰しなくなり、デューティが上下限に当たり始めます。きれいな指数的発散の代わりに有界な振動になるのはそのためです。
ゲイン余裕も同じくらい重要です。Kd を固定して Kp と Ki を一緒に上げると、交差周波数は遅延が位相を支配する領域に上がり、位相余裕より先にゲイン余裕が崩れます。f_s を上げると遅延が縮み、同じゲインでも余裕が回復します。電圧モード設計でスイッチング周波数を上げる定量的な根拠がこれです。
モデルが省いているもの
平均化モデルはインダクタ電流が正の間だけ有効です。ダイオード整流の降圧は谷電流が 0 に達すると不連続モードに入り、強制連続モードの同期整流型はそうなりませんが損失が変わります。シミュレーション電流が負になった瞬間を表示するので、それ以降の結果は参考程度に見てください。スイッチングリップル、ADC の量子化、ゲートドライバのデッドタイム、電流制限、実際のソフトスタート回路の傾きはすべて省いています。
ゲインはファームウェア定数ではなく無次元の制御器設定と考えてください。特定のサンプリング周波数の固定小数点係数に変換するには PI 離散化計算機を、アナログループで同じ進みを実現する Type III 回路を設計するには補償器計算機を使ってください。どちらも下にリンクしています。
参考資料
R. W. Erickson, D. Maksimović, Fundamentals of Power Electronics, 3rd ed., Springer, 2020, 第 7 章・第 9 章 (平均化コンバータモデル、電圧モードループ設計)。
G. F. Franklin, J. D. Powell, M. L. Workman, Digital Control of Dynamic Systems, 3rd ed., Addison-Wesley, 1998 (サンプリングループのゼロ次ホールドと演算遅延)。
H. D. Venable, "The K factor: a new mathematical tool for stability analysis and synthesis," Proc. Powercon 10, 1983 (Type II / III 補償のゼロ配置)。
アニメーションはこのページに示した式どおりに描いています。教科書やソフトウェアライブラリによって規約が異なるので、数値を比べる前に使っているコードの規約を確認してください。