k ファクタ法による Type II 補償器の設計

執筆: Power Electronics Hub 編集者 · 公開 2026-10-25

電流モードの DC-DC コンバータの多くは、Type II 補償器で電圧ループを閉じています。定常偏差をなくす積分器に、クロスオーバー周波数付近の位相を持ち上げるゼロと極を 1 つずつ加えた構成です。3 つの部品は試行錯誤でもいずれ決まりますが、H. Dean Venable が提案した k ファクタ法を使えば、自分で決める 2 つの数値(クロスオーバー周波数と位相余裕)と、その周波数でのプラントのゲインと位相から直接求められます。

Type II 補償器の働き

一般的な回路は反転型のエラーアンプです。出力電圧は分圧上側抵抗 R1 を通って反転入力に入り、アンプ出力からこの入力へ戻る帰還回路は、R2 と C1 の直列に C2 を並列に接続したものです。分圧下側抵抗は DC 動作点を決めますが、反転入力は仮想接地なので、小信号伝達関数には現れません。

伝達関数
Gc(s) = (1 + s·R2·C1) / [ s·R1·(C1 + C2) · (1 + s·R2·C1·C2 / (C1 + C2)) ]
ゼロ
f_z = 1 / (2π · R2 · C1)
極
f_p = (C1 + C2) / (2π · R2 · C1 · C2) ≈ 1 / (2π · R2 · C2) (C1 ≫ C2 のとき)

低周波では積分器によって位相は −90° になります。ゼロと極の間で位相は再び上がり、2 つの周波数の幾何平均でピークになります。このピークが位相ブーストです。極とゼロを離すほどブーストは大きくなりますが、90° に届くことはありません。しかも間隔を広げると高域ゲインも上がり、スイッチングリップルがループに入り込みやすくなります。

ここで扱うプラント:ピーク電流モード降圧コンバータ

ピーク電流モード制御では、インダクタは制御電圧で決まる電流源のようにふるまいます。そのため、電圧モード降圧コンバータの LC 二重極は、出力コンデンサと負荷で決まる低周波の単一極に分かれます。スイッチング周波数より十分低い帯域では、次の 1 次モデルで十分に表せます。

制御-出力ゲイン
Gvc(s) = (R / Ri) · (1 + s·ESR·C) / (1 + s·R·C)
負荷極
f_pl = 1 / (2π · R · C)
ESR ゼロ
f_esr = 1 / (2π · ESR · C)

ここで R は負荷抵抗、C は出力容量、Ri はエラーアンプ出力に換算した電流検出ゲイン(V/A)です。多くのコントローラは COMP ピンと電流コンパレータの間に内部ゲインや分圧を持っているので、Ri は検出抵抗の値だけで決めず、データシートにある COMP から電流へのトランスコンダクタンスから求めてください。負荷極と ESR ゼロの間ではプラントの位相がほぼ −90° にとどまります。これはまさに Type II 補償器が想定している状況です。

このモデルには、電流ループのサンプリング効果、スロープ補償の詳細、エラーアンプ自体の帯域幅は含まれていません。下のインタラクティブなグラフではサンプリング効果を加えられるので、それでどれだけ位相を失うかを確認できます。

k ファクタ法の手順

この手法では、ゼロをクロスオーバーの k 分の 1、極を k 倍の周波数に置き、最大の位相ブーストがちょうどクロスオーバーに来るようにします。上の Type II 伝達関数では、fc でのプラントのゲインと位相がわかれば、次の関係は近似ではなく厳密に成り立ちます。

  1. 1クロスオーバー周波数 fc を決めます。ピーク電流モードでは fs/10 以下から始めるのが一般的で、負荷極よりは十分高くします。
  2. 2fc でのプラントを計算します。ゲイン |Gvc(fc)| と位相 P(度単位の負の値)です。
  3. 3位相余裕 PM を決め(通常 45°〜60°)、必要なブーストを求めます:Boost = PM − P − 90°。
  4. 4k = tan(Boost / 2 + 45°) を計算します。ゼロは fc/k、極は fc·k に置きます。
  5. 5fc でループゲインがちょうど 1 になるよう、補償器のゲインは fc で G = 1 / |Gvc(fc)| にする必要があります。
  6. 6R1 を選び(分圧回路の電流もこれで決まります)、C2 = 1 / (2π·fc·G·R1·k)、C1 = C2·(k² − 1)、R2 = k / (2π·fc·C1) を計算します。
  7. 7標準値に丸め、丸めた部品でクロスオーバーと位相余裕を確認し直します。
必要なブースト
Boost = PM − P − 90°
k ファクタ
k = tan(Boost / 2 + 45°)
部品値
C2 = 1 / (2π·fc·G·R1·k), C1 = C2·(k² − 1), R2 = k / (2π·fc·C1)

試してみる:インタラクティブなボード線図

電力段や目標値を変えると、部品値とループが再計算されます。確認行のクロスオーバーと位相余裕は、計算したループそのものから読み取った値です。そのため、単純なプラントでは式が目標どおりの結果になること、そしてスイッチング周波数の半分にあるサンプリング極を加えると結果がどれだけずれるかを確かめられます。

fc でのプラント: -15.9 dB, -84.7° · 必要な位相ブースト: 54.7°

Type II の定数(このプラントモデルに対しては厳密解)

k = 3.15R2 = 69.7 kΩC1 = 180 pFC2 = 20.2 pFfz = 12.7 kHzfp = 126 kHz

計算したループで確認

サンプリング極なし: クロスオーバー 40 kHz, PM 60.0°

サンプリング極あり: クロスオーバー 39.8 kHz, PM 45.6°

計算例:12 V、5 A、500 kHz の降圧コンバータ

  1. 1電力段:R = 12 V / 5 A = 2.4 Ω、C = 100 µF のセラミックコンデンサ(ESR 合計 3 mΩ)、Ri = 0.25 V/A、fs = 500 kHz です。負荷極は 663 Hz、ESR ゼロは約 530 kHz にあります。
  2. 2目標:fc = 40 kHz(fs/12.5)、PM = 60° とし、R1 = 10 kΩ を使います。
  3. 340 kHz でのプラント:|Gvc| = 0.160(−15.9 dB)、P = −84.7° です。
  4. 4Boost = 60° + 84.7° − 90° = 54.7° なので、k = tan(72.4°) ≈ 3.15 です。ゼロは 12.7 kHz、極は 126 kHz に来ます。
  5. 5G = 1 / 0.160 ≈ 6.27。C2 = 1 / (2π · 40 kHz · 6.27 · 10 kΩ · 3.15) ≈ 20.2 pF、C1 = 20.2 pF · (3.15² − 1) ≈ 180 pF、R2 = 3.15 / (2π · 40 kHz · 180 pF) ≈ 69.7 kΩ となります。
  6. 6標準部品の R2 = 68 kΩ、C1 = 180 pF、C2 = 22 pF を使うと、計算上のループは約 38.8 kHz でクロスし、位相余裕は 58.6° です。
  7. 7250 kHz に Q = 2/π のサンプリング二重極を加えると、同じクロスオーバーで位相余裕はおよそ 45° まで下がります。まだ許容範囲ですが、机上で 60° の設計が実機でも 60° になるとは限らないことがわかります。

上の数値は、このガイドのモデルから数値計算したものです。実際のコンバータの測定値とは比較しておらず、Q = 2/π のサンプリングモデルは次の節で説明する仮定に基づいています。

簡易手法が見落としていること

  • 電流ループのサンプリング:Ridley の電流モードモデルでは、スイッチング周波数の半分に二重極が加わります。その Q は Q = 1 / (π · (m_c · D' − 0.5)) で、m_c はスロープ補償係数、D' = 1 − D です。Q = 2/π は m_c · D' = 1 に相当します。スロープ補償が少ないほど Q が高くなり、fc 付近での位相の損失も大きくなるので、お使いのコントローラの値で確認してください。
  • エラーアンプの帯域幅:ゲイン帯域幅積が限られたオペアンプやトランスコンダクタンスアンプは、それ自身の極を追加します。ゲイン帯域幅積を fp での補償器のゲインより十分高くしておくか、モデルに含めてください。
  • トランスコンダクタンスアンプ:多くの集積コントローラは gm アンプを使い、RC 回路を帰還経路ではなく COMP とグラウンドの間に接続します。極とゼロの考え方は同じですが、ゲインの式は異なり、分圧比もループゲインに入ってきます。
  • フォトカプラ帰還:TL431 とフォトカプラを使う絶縁電源では、フォトカプラの電流伝達率とそれ自身の極がループを変えます。さらに定番の回路では、LED 抵抗を通る 2 つ目の経路も加わります。k ファクタの考え方は使えますが、上の部品値の式はそのままでは使えません。
  • 電圧モード制御:電圧モードの降圧コンバータには位相が最大 −180° まで遅れる LC 二重極があり、Type II では取り戻せません。この場合はゼロ 2 つ、極 2 つの Type III 補償器が必要です。
  • 公差と動作点:負荷極は負荷電流とともに移動し、セラミックコンデンサの容量は DC バイアスで低下します。最小負荷と最大負荷、そしてディレーティング後の容量で余裕を確認し直してください。

実測のクロスオーバーが設計からずれる理由

  • 検出抵抗の値をそのまま Ri として使い、内部の電流検出アンプのゲインや COMP の分圧を見落としているケース。クロスオーバーが目標から数倍ずれてしまいます。
  • クロスオーバーを fs/2 に近づけすぎているケース。そこでは簡略化したプラントが、もはやコンバータを表していません。
  • セラミックコンデンサの容量として、実際の DC バイアスでの値ではなく公称値を使っているケース。
  • 位相余裕を設計目標の値のまま読み、丸めた標準値で計算し直していないケース。できれば、帰還経路に入れた小さな抵抗の両端から信号を注入し、ネットワークアナライザでループを実測してください。
  • 高い位相余裕を狙って位相ブーストを大きく取りすぎているケース。k とともに高域ゲインが上がるため、COMP ピンのスイッチングリップルが PWM コンパレータを乱すおそれがあります。

参考文献

  • H. D. Venable, "The K Factor: A New Mathematical Tool for Stability Analysis and Synthesis," Proceedings of Powercon 10, 1983.
  • R. B. Ridley, "A New, Continuous-Time Model for Current-Mode Control," IEEE Transactions on Power Electronics, vol. 6, no. 2, 1991.

このガイドは一般的な工学原理を説明するものです。設計は必ずデータシート、シミュレーション、測定で確認してください。

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