三相インバータの DC リンクコンデンサを RMS 電流で選定する

執筆: Power Electronics Hub 編集者 · 公開 2026-11-01

相あたり 50 A rms を M = 0.8、cos φ = 0.9 で出力する 400 V インバータでは、DC リンクコンデンサに約 30 A rms が流れます。そのほとんどがスイッチング周波数とその整数倍付近の成分です。コンデンサバンクの規模を決めるのは、たいてい静電容量よりもこの電流です。しかも、この電流は出力電圧が最大のときに最大になるわけではありません。最悪条件は M = 0.6 付近にあります。

コンデンサが実際に受け持つ電流

相電流は基本波周波数のなめらかな正弦波ですが、DC リンクにはそれがそのまま現れるわけではありません。ブリッジはスイッチング周期ごとに各相電流を細切れに DC レールへつなぐので、リンクから引き出される電流は i_dc = s_a·i_a + s_b·i_b + s_c·i_c というパルス列になります。その平均値は有効電力を U_dc で割った値で、これを DC 電源が供給します。残りはすべてコンデンサが受け持ちます。

三相が平衡した正弦波電流であれば、i_dc には基本波成分も 2 倍周波数成分も含まれません。2f リップルが支配的な単相インバータとは、この点が異なります。したがってコンデンサ電流は高周波の電流です。基本波が 50 Hz でも 400 Hz でもほとんど変わらず、スイッチング周波数にもほぼ依存しません。後述のシミュレーションでは、5 kHz と 20 kHz で RMS 値が 5 桁まで一致しました。

計算式

コンデンサの RMS 電流(Kolar & Round)
I_C,rms = I_N,rms · √( 2M · [ √3/(4π) + cos²φ · (√3/π − 9M/16) ] )
相電流のピーク値 Î で表した場合
I_C,rms = Î · √( M · [ √3/(4π) + cos²φ · (√3/π − 9M/16) ] )
変調率
M = Û_phase / (U_dc / 2)
DC 平均電流
I_dc = (3/4) · M · Î · cos φ

平方根の前に掛ける電流は相電流の RMS 値です。ここにピーク値を入れると 41 % 大きく出てしまうことが、後述のシミュレーションからわかります。

検証として、正弦波の相電流、10 kHz の対称キャリア、50 Hz の基本波で理想的な三相ブリッジをシミュレーションし、基本波 1 周期にわたって i_dc からその平均値を差し引いた RMS を求めました。表のどの点でも、正弦波 PWM とセンタアラインの空間ベクトル変調は同じ RMS となり、いずれも計算式との差は 0.01 % 未満でした。空間ベクトル変調では、線形範囲の上限である M = 1.15 でも一致します。

M = 0.5: φ = 0°, 30°, 60°
シミュレーション 0.6387, 0.5834, 0.4532 · I_N,rms
M = 0.8: φ = 0°, 30°, 60°
シミュレーション 0.6186, 0.5849, 0.5109 · I_N,rms
M = 1.0: φ = 0°, 30°, 60°
シミュレーション 0.5033, 0.5088, 0.5197 · I_N,rms

ここまでよく一致するのは、計算式とシミュレーションが同じ仮定に立った理想的なケースだからです。計算式は AC 側の電流リップルとデッドタイムを無視しています。論文のアブストラクトでは、シミュレーションおよび実測との差は約 8 % 以内と報告されており、実際のインバータではこの程度の精度を見込んでおくのが妥当です。

最悪条件となる動作点

コンデンサ電流 I_C,rms29.7 AI_C,rms / I_N,rms0.593直流側の平均電流38.2 AI_C,rms/(2π·f_s·C)4.72 V

力率 1 では、ストレスは M = 0.61 で最大となり、I_C,rms = 0.65·I_N,rms です。よく使われる「相電流の約 0.65 倍」という経験則は、この点に由来します。M = 1 では 0.50 まで下がります。cos φ が下がるにつれてピークは高い M 側へ移り、なだらかになります。cos φ = 0.9 では M = 0.64 で 0.61、0.7 では M = 0.74 で 0.55、0.5 では M = 0.98 で 0.52 です。

これはモータドライブでは重要な点です。定格トルク、約 60 % の速度で運転するモータは、電流は定格のまま M = 0.6 付近で動作します。そのため、定格点(高い M)だけで選んだバンクは、実際に長く運転する速度域で能力不足になるおそれがあります。トルク-速度の動作範囲全体で評価し、その最大値で選定してください。動作範囲がわからない場合は、0.65·I_N,rms を上限として見込んでおけば安全です。

計算例

  1. 1U_dc = 400 V、I_N = 50 A rms(Î = 70.7 A)、M = 0.8、cos φ = 0.9 とします。
  2. 2平方根の値は 0.593 となり、I_C,rms = 29.7 A です。シミュレーションでは 29.66 A でした。
  3. 3DC 平均電流は (3/4)·0.8·70.7·0.9 = 38.2 A、電力にして 15.3 kW です。検算すると、3·(113 V rms)·50 A·0.9 も同じ 15.3 kW になります。
  4. 4C = 100 µF、f_s = 10 kHz とすると、概算式 I_C,rms/(2π·f_s·C) から 4.7 V が得られます。
  5. 5シミュレーションでは、スイッチング周期内のピーク・ツー・ピークが平均 9.3 V、最大 12 V でした。つまり概算値をピーク・ツー・ピークとして読むと、この例では 2~2.5 倍の過小評価になります。

I_C,rms/(2π·f_s·C) は桁の見積もりにとどめてください。パルス列を 1 つの正弦波として扱った式だからです。リップル電圧が設計の制約になる場合は、実際の波形をシミュレーションしてください。

フィルムコンデンサと電解コンデンサ

両者は、選定で制約になる要因が正反対です。フィルムコンデンサは ESR が非常に低く、µF あたりに流せるリップル電流が大きいため、サイズは電圧リップルやホールドアップ時間で決まることが多くなります。ESR 2 mΩ、熱抵抗 5.8 K/W と仮定すると、前述の 29.7 A によるフィルムコンデンサの温度上昇は約 10 K で、十分に余裕があります。電解コンデンサは体積あたりの静電容量がはるかに大きい反面、流せるリップル電流はずっと小さくなります。この周波数で 1 個あたり 3 A の定格と仮定すると、同じ電流には約 10 個の並列が必要で、たいていは設計上必要な容量を上回ってしまいます。この 2 つの数値は説明用の仮定なので、実際にはデータシートの値を使ってください。

電解コンデンサには電圧の制約もあります。余裕を見込むと、400 V のリンクには通常 450 V か 500 V の品種が必要になり、そうでなければ低耐圧品 2 個を電圧バランスをとりながら直列にします。寿命は内部温度に強く依存するので、実際の電流分担をコンデンサ寿命計算ツールで確認してください。定格リップル電流は、データシートの周波数補正係数で補正する必要があります。バンクの容量は突入エネルギーも左右します。それに見合うプリチャージ抵抗はプリチャージ抵抗計算ツールで選定できます。バンク自体の発熱計算には熱計算ツールを使ってください。

DC 電源自体にリップルがあれば、それも加わります。6 パルスのダイオード整流器は 300 Hz または 360 Hz の電流を加えますが、これはインバータの計算式には含まれていません。周波数が異なるので、2 つの RMS 値は二乗和平方根で合成します。電解コンデンサのリップル定格は低周波と高周波で異なるため、それぞれ別々に照合してください。

ESL とバスバー

RMS の計算からは、転流ループについては何もわかりません。スイッチングのエッジごとに、相電流の全量が数十ナノ秒のうちに素子とコンデンサの間で移り変わり、ループインダクタンスがそれを素子にかかるオーバーシュート電圧に変えます。RMS 定格は足りていても、接続の長い大容量バンクではスイッチに過大なストレスがかかることがあります。積層バスバー、各ハーフブリッジの近くに置く低 ESL のフィルムコンデンサ、部品の並列化は、いずれもこれを抑えるのに有効です。よくある構成は、バルクのエネルギーを電解コンデンサでまかない、モジュールの直近に小容量のフィルムコンデンサやセラミックコンデンサを置くものです。この場合は 2 つのバンク間の共振に注意し、実際の電流分担をシミュレーションやロゴスキーコイルで確認してください。分担を決めるのは静電容量ではなく、インピーダンスだからです。

参考文献

  • J. W. Kolar, S. D. Round, "Analytical calculation of the RMS current stress on the DC-link capacitor of voltage-PWM converter systems," IEE Proc. Electr. Power Appl., vol. 153, no. 4, pp. 535–543, 2006.

このガイドは一般的な工学原理を説明するものです。設計は必ずデータシート、シミュレーション、測定で確認してください。

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