LC フィルタのダンピング設計:R_d–C_d 枝の決め方

執筆: Power Electronics Hub 編集者 · 公開 2026-11-01

巻線抵抗 20 mΩ、ESR 10 mΩ の 10 µH、10 µF フィルタは、一見何の問題もなさそうです。ところが出力インピーダンスは 15.9 kHz 付近で 33 Ω まで跳ね上がります。これを 12 V、20 W のレギュレータの前に置くと発振します。40 µF のコンデンサと 0.61 Ω の抵抗を加えれば、ピークは 1 Ω 未満まで下がります。この記事では、この 2 つの値がどこから出てくるのかを説明します。

フィルタがリンギングする理由

L と C は f0 = 1/(2π√(LC)) でエネルギーをやり取りし、そのエネルギーを取り除けるのは抵抗だけです。判断の目安になるのが Z0 = √(L/C) です。直列抵抗は Z0 よりずっと小さければ「小さい」とみなせ、並列抵抗は Z0 よりずっと大きければ影響が小さいといえます。

共振周波数と特性インピーダンス
f0 = 1 / (2π√(LC)), Z0 = √(L/C)
抵抗負荷をもつ出力フィルタ
Q ≈ R_load / Z0
直列損失のみの場合
Q ≈ Z0 / (DCR + ESR)
両方がある場合
1/Q ≈ Z0/R_load + (DCR + ESR)/Z0
ダンピングなしの出力インピーダンスのピーク
|Z_o|,peak ≈ Q · Z0

最近の部品は、この問題をかえって悪化させます。セラミックコンデンサの ESR は数 mΩ しかなく、良いインダクタは DCR も小さいため、フィルタの性能が上がるほど Q も高くなります。例では Z0 = 1 Ω、DCR + ESR = 30 mΩ なので、無負荷で Q = 33 です。1 Ω の負荷ならこのフィルタの共振はほぼつぶれますが、100 Ω の負荷ではほとんど効きません。

レギュレータをつなぐと不安定になる理由

しっかりレギュレーションされたコンバータは、入力から一定の電力を引き込みます。入力電圧が上がれば入力電流は下がるので、ループ帯域内では負性抵抗 R_in = −V²/P に見えます。12 V、20 W なら −7.2 Ω です。フィルタコンデンサに並列に負性抵抗がつながると、共振のエネルギーを取り除くどころか、逆に注ぎ込んでしまいます。

この例では正のダンピングが (DCR + ESR)/Z0 = 0.03、負の項が Z0/|R_in| = 0.139 です。差し引きで負になるため、フィルタは発振器として振る舞います。この線形回路を時間領域でシミュレーションすると、小さな外乱が 0.4 ms の区間ごとに約 9 倍ずつ大きくなります。

Middlebrook は 1976 年に、これをインピーダンスの条件としてまとめました。フィルタの出力インピーダンスが全周波数でコンバータの入力インピーダンスより十分低ければ、入力フィルタを追加してもループゲインはほとんど変わらない、というものです。厳密には開ループの入力インピーダンスも関わるため、コンバータ側の 2 つのインピーダンス Z_N、Z_D と比較します。最初の確認としては、|Z_o| と |R_in| を比べるだけで問題が見えます。この例ではピークの 33 Ω が 7.2 Ω を大きく上回っており、約 4.6 倍の差で条件を満たしません。

負性入力抵抗が成り立つのは、レギュレータのクロスオーバー周波数より下だけです。それより上では、入力インピーダンスは開ループの電力段の特性に従います。定電力の直線から求めた余裕をうのみにせず、シミュレーションか注入法で実際の |Z_in| 曲線を確認してください。

R_d–C_d 枝

C に抵抗をそのまま並列に付けると、DC 電圧で電力を無駄に消費してしまいます。抵抗に直列に DC カット用のコンデンサ C_d を入れれば、DC を遮断しつつ、f0 では抵抗を効かせたままにできます。すると選ぶべきものはコンデンサ比 n = C_d/C だけになり、最適な R_d はそこから一意に決まります。R_d が小さすぎると C_d が C に加わるだけで、より低い周波数にダンピングのない共振が新たにできます。大きすぎると枝が切り離されたのと同じになり、元のピークが残ります。最適値はその間にあります。

コンデンサ比
C_d = n · C
最適抵抗
R_d,opt = Z0 · √( (2 + n)(4 + 3n) / (2n²(4 + n)) )
そのときのピーク
|Z_o|,peak = Z0 · √(2(2 + n)) / n

これはこの回路に対する Erickson の結果です。DCR と ESR を含めずに |Z_o(f)| を数値スイープすると、n = 1、2、4、8 のいずれでもピークの式と 0.0001 % 以内で一致します。

n = 1
R_d = 1.449·Z0, ピーク = 2.449·Z0
n = 2
R_d = 0.913·Z0, ピーク = 1.414·Z0
n = 4
R_d = 0.612·Z0, ピーク = 0.866·Z0
n = 8
R_d = 0.427·Z0, ピーク = 0.559·Z0
f0, Z015.9 kHz, 1.00 Ωダンピングなしの Q33.3 (33.3 Ω)R_d, C_d0.612 Ω, 40.0 µF|Z_o| のピーク0.824 Ω

スライダを動かすと、2 つのことがわかります。まず、n = 4 から n = 8 にすると容量は 2 倍になるのに、ピークは 3 分の 1 しか下がらず、効果はすぐに頭打ちになります。次に、R_d は最適値付近で多少ずれても許容されますが、特性が平坦なわけではありません。n = 4 で最適値の半分にするとピークは 1.18·Z0、2 倍にすると 1.29·Z0 になります。それでも、どちらもダンピングなしに比べればはるかに良好です。

計算例

  1. 1L = 10 µH、C = 10 µF から Z0 = 1 Ω、f0 = 15.9 kHz です。DCR = 20 mΩ、ESR = 10 mΩ のとき Q = 33、ピークは 33.3 Ω になります。
  2. 2コンバータは 12 V で 20 W を消費するので、|R_in| = 7.2 Ω です。ピークはこれより十分低くします。ここでは約 8 倍あれば十分な余裕になります。
  3. 3n = 4 とします。C_d = 40 µF、R_d = 0.612 Ω です。E96 の標準値にするなら 0.62 Ω を使います。
  4. 4式から得られるピークは 0.866 Ω です。DCR と ESR を含めた数値スイープでは 0.824 Ω と少し低くなります。これらの抵抗もダンピングに寄与するためです。
  5. 5シミュレーションで確認します。ダンピングなしでは成長していた同じ外乱が、同じ 2 つの区間の間で 4 桁以上減衰しました。
  6. 6抵抗を確認します。200 kHz では C のリアクタンスが約 0.08 Ω、枝は 0.61 Ω なので、枝に流れ込むのはリップル電流の約 13 % だけです。リップルが 1 A rms なら約 0.13 A rms、損失は 10 mW です。むしろ起動時に C_d へ流れ込むサージのほうが大きなストレスになることが少なくありません。

C_d と R_d の実際の選び方

C_d には低 ESR も厳しい許容差も必要ないので、通常は安価な電解コンデンサかポリマーコンデンサを使います。もともと実装するつもりだった部品をそのまま使える場合もあります。その ESR が R_d に近ければ抵抗を別に付ける必要はありませんが、電解コンデンサの ESR は温度や経年で大きく変わります。最悪値の ESR で検討し、リップル電流と寿命はコンデンサ寿命計算ツールで確認してください。コンデンサバンクが突入電流にも耐えなければならないこと、プリチャージの計算では C_d も総容量に含まれることも忘れないでください。

枝は物理的に C の近くに配置します。枝のインダクタンスは R_d と直列に入ります。16 kHz ではほとんど問題になりませんが、共振周波数が高い場合はループが長いと効果が落ちます。セラミックコンデンサは DC バイアスで容量が下がるので、Z0 と n はディレーティング後の C で計算してください。そうしないと、実際の最適点が設計からずれてしまいます。

直列 R–L_b による代替案

大きな C_d を使えない場合は、抵抗と 2 つ目のインダクタ L_b を直列にして L に並列に入れる方法があります。高周波では L_b が抵抗を切り離すので、抵抗だけを並列に入れる場合に比べ、スイッチング周波数付近の減衰量の低下は小さく抑えられます。ただし L_b も L と並列に電流を流すため、ある程度の劣化は避けられません。例を数値スイープすると、L_b = L/4 = 2.5 µH と約 0.61 Ω で、n = 4 と同じ 0.866 Ω のピークが得られます。代償は、磁気部品が 1 つ増えることと、DC 電流が抵抗比に応じて L と L_b に分かれることです。

よくある間違い

  • 減衰量だけを見てフィルタを設計し、|Z_o| を一度もプロットしないこと。減衰特性は問題なく見えても、インピーダンスのピークがループを壊すことがあります。
  • 軽負荷でしか試験しないこと。|R_in| = V²/P は全負荷・最低入力電圧で最小になるため、負性抵抗の影響もそこで最も強くなります。
  • セラミックコンデンサの ESR がダンピングしてくれると期待すること。Z0 が 1 Ω 程度なのに対して数 mΩ では、ほとんど何の効果もありません。
  • ベンチで安定していたことを、問題がない証拠とみなすこと。入力電圧が低い、電解コンデンサが冷えている、電源ケーブルが短いといった条件は、いずれも余裕を変えます。

参考文献

  • R. W. Erickson, "Optimal single resistor damping of input filters," Proc. IEEE APEC 1999, pp. 1073–1079.
  • R. D. Middlebrook, "Input filter considerations in design and application of switching regulators," IEEE IAS Annual Meeting, 1976.
  • R. W. Erickson, D. Maksimović, "Fundamentals of Power Electronics," 2nd ed., Kluwer, 2001, ch. 10.

このガイドは一般的な工学原理を説明するものです。設計は必ずデータシート、シミュレーション、測定で確認してください。

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