動作原理
昇圧 PFC は DC バスを入力ピークより高い電圧に充電しながら、入力電流を系統電圧と同相の正弦波に整形します。入力電圧は商用周期ごとに 2 回 0 からピークまで変化するため、デューティとインダクタリップルは絶えず変わり、それぞれの最悪条件は周期内でも入力範囲内でも別々の場所にあります。
インダクタは低入力・定格出力で決めます。電流が最も大きく、リップルは正弦波の頂点で低入力ピーク電流の比率 r として決めるからです。同じインダクタを高入力で確認すると、v_in が V_out/2 を通過するためリップルの絶対値は大きくなり得ますが、入力電流はずっと小さいので、ゼロクロス付近では電流の谷が 0 に届き、不連続モードで動作します。
出力コンデンサには別々の役割が 2 つあります。停電の瞬間に出力を保つこと(ホールドアップ)と、2 倍の商用周波数リップルを許容値に収めることです。単相 PFC は 2·f_line で脈動する電力を入れ、負荷は一定電力を取るためです。より大きな容量を求める条件が値を決めます。
スイッチ、ダイオード、コンデンサの RMS 電流は、M = 8√2·V_ac/(3π·V_out) を使う一般的な低入力近似式で計算します。M は電圧利得ではなく、ライン周期にわたって入力 RMS 電流の 2 乗のうちダイオードが担う割合です。つまり I_D,rms² = M·I_in,rms²、I_sw,rms² = (1 − M)·I_in,rms² です。これらの式は高周波リップルを無視しており、ここで使うリップル比ではその影響は数 % です。
設計手順
- 1入力範囲、商用周波数、出力電圧と電力、想定効率を決めます。高入力ピークが V_out より十分低いことを確認します。
- 2スイッチング周波数と低入力ピークでのリップル比(通常 20〜40 %)を決め、インダクタンスを計算します。
- 3入力範囲の両端でインダクタを確認します。最大ピーク電流、最大リップル、高入力での DCM 比率です。インダクタンスは無バイアスではなくピーク電流での値で指定します。
- 4ホールドアップと 2·f_line リップルから出力コンデンサを求めて大きいほうを選び、計算した RMS リップル電流がコンデンサの定格内にあることを確認します。
- 5低入力の RMS・平均電流でスイッチ、昇圧ダイオード、ブリッジを選び、導通損失を見積もります。
計算式
- 入力電流
- I_in,rms = P_out / (η·V_ac), I_pk = √2·I_in,rms
- 昇圧インダクタンス
- L = V_pk,min·(1 − V_pk,min/V_out) / (f_s·r·I_pk,min)
- 商用周期内のリップル
- ΔI_L(θ) = v_in·(1 − v_in/V_out) / (f_s·L), v_in = V_pk·sin θ; v_in = V_out/2 で最大 V_out/(4·f_s·L)
- 出力容量
- C_hold = 2·P_out·t_hold / (V_out² − V_min²), C_ripple = P_out / (2π·f_line·ΔV_pp·V_out)
- 低入力時の電流ストレス
- M = 8√2·V_ac / (3π·V_out): I_sw,rms = I_in,rms·√(1 − M), I_D,avg = P_out/V_out, I_D,rms = I_in,rms·√M
- コンデンサリップル、ブリッジ損失、蓄積エネルギー
- I_C,rms = √(I_D,rms² − I_o²), P_bridge = 2·V_f·(2√2/π)·I_in,rms, E = ½·L·I_peak²
計算例
既定値(90〜265 V、50 Hz、400 V、1 kW、95 %、65 kHz、リップル 30 %)では、低入力の入力電流は 11.70 A rms、ピーク 16.54 A です。インダクタンスは 269 µH で、低入力ピークでのリップルは 4.96 A、インダクタのピーク電流は 19.02 A、蓄積エネルギーは 48.7 mJ です。265 V では v_in ≈ V_out/2 となる 32.5° 付近でリップルが 5.72 A p-p と最大になり、各半周期の約 34 % が DCM です。10 ms の間 300 V 以上を保つホールドアップには 286 µF が必要ですが、100 Hz リップルを 20 V p-p に収めるには 398 µF が必要なので、リップル条件で決まります。低入力では M = 0.270、スイッチ 9.99 A rms、ダイオード平均 2.50 A・RMS 6.08 A、コンデンサ 5.54 A rms で、ダイオードを 1 V とするとブリッジ損失は約 21 W です。
よくある間違い
- インダクタンスを無バイアスの値で指定すること。ダストコアはピーク電流で透磁率が大きく下がるため、定格負荷での実際のリップルは設計値よりかなり大きくなります。
- 出力コンデンサをホールドアップだけで決め、リップル電流定格を見落とすこと。実際にはリップル電流がコンデンサの並列数を決めることがよくあります。
- V_out を高入力ピークに近づけすぎること。265 V 入力のピークは約 375 V なので、400 V バスではサージや制御器のレギュレーション範囲に使える余裕がほとんどありません。
- 世界中で販売する製品なのに、リップル計算を 60 Hz で行うこと。同じリップルなら 50 Hz では約 20 % 大きな容量が必要です。
よくある質問
インダクタはなぜ低入力で決めるのですか?
最小入力電圧・定格出力で入力電流が最も大きくなるため、同じリップル比でもピーク電流が最大になり、CCM の前提が最も重要になる条件だからです。そのあと高入力でどれだけ DCM に入るかを確認します。
高入力のほうがリップルが大きくなるのはなぜですか?
リップルは瞬時入力が出力電圧の半分のとき V_out/(4·f_s·L) で最大になります。90 V 入力はピークが 127 V で 200 V に届きませんが、265 V 入力は半周期ごとに 2 回 200 V を通過するため、電流は小さくてもリップルの絶対値は大きくなります。
出力コンデンサはホールドアップとリップルのどちらで決めますか?
両方を満たす必要があります。ホールドアップは V_out がどこまで、どれだけの時間下がってよいかで決まり、リップルは商用周波数と許容 p-p 電圧で決まります。50 Hz でリップル条件が厳しいとリップルで決まることが多く、ホールドアップ時間が長ければたいていホールドアップ側が大きくなります。
RMS 電流の式はどのくらい正確ですか?
入力電流が高周波リップルのない正弦波で、周期全体が CCM であると仮定しています。低入力のリップル比が 20〜40 % 程度なら誤差は数 % で部品選定には十分ですが、最終的な損失計算はシミュレーション波形で行うのが望ましいです。
計算結果は工学的な推定値です。データシート、シミュレーション、実測で設計を確認してください。