フライバックコンバータ設計

CCM・DCM フライバックの巻数比、励磁インダクタンス、一次・二次電流、MOSFET とダイオードの電圧ストレス、RCD クランプを計算し、最小・最大入力での電流と V_ds 波形を表示します。

入力と出力

最小入力・定格負荷で 2·f_line リップルを含めたバルクコンデンサの最低電圧です。空欄なら √2·V_ac,min を使い、このリップルは無視されます。

巻数比とインダクタンス

r は V_in,min・定格負荷での励磁電流の中心値に対する p-p リップルです。r = 2 が CCM/DCM 境界です。

MOSFET と RCD クランプ

巻数比 Np/Ns

5.89

V_or 73.6 V、D_max 45.0 %

励磁インダクタンス

1.12 mH

L_lk 11.2 µH

一次ピーク電流

0.976 A

½·L_m·I_pk² = 532 µJ

ドレインピーク電圧

485 V

許容 520 V

定格負荷での電流

V_in,min (90 V)V_in,max (375 V)
導通モードCCMCCM
デューティ D45.0 %16.4 %
一次ピーク0.976 A0.883 A
一次谷0.418 A0.035 A
一次 RMS0.480 A0.211 A
一次平均0.314 A0.075 A
二次ピーク5.750 A5.199 A
二次 RMS2.768 A2.479 A
出力コンデンサリップル (RMS)1.913 A1.465 A
CCM/DCM 境界負荷0.800 A1.847 A

電圧ストレス

V_in,max + V_or
448 V
V_in,max + V_clamp
485 V
許容 V_ds
520 V
出力ダイオード逆電圧
75.6 V

RCD クランプ

V_clamp
110 V
クランプ損失(最悪条件)
1.04 W
R_clamp
11.8 kΩ
C_clamp
13.1 nF
漏れエネルギー放出時間
296 ns

ループの制約

f_RHP
19.9 kHz
f_RHP/π
6.35 kHz
入力電力
28.2 W

CCM で V_in,min・定格負荷における右半平面ゼロです。U-165 は使えるクロスオーバーの上限をおよそ f_RHP/π としています。

2 スイッチング周期の波形

理想的なフライバックの式です。二次電流は P_in = P_out/η に基づく励磁電流の n 倍としているため、やや安全側です。リンギング、クランプダイオードの順方向回復、コアそのものはモデル化していません。コアとギャップはコアメーカーのデータで決め、最終波形は実測で確認してください。

動作原理

フライバックはスイッチがオンの間にトランスの励磁インダクタンスへエネルギーを蓄え、オフになると二次側へ放出します。巻数比は、オフ期間に一次側に現れる反射電圧 V_or = n·(V_out + V_f) を決めます。V_or を上げるとオフ時間が短くなり一次電流は減りますが、ドレインストレスは増えます。下げればその逆です。巻数比はデューティが最大になる最小入力で決めます。

励磁インダクタンスは、V_in,min・定格負荷で選んだ導通モードから決まります。CCM ではリップル比 r = ΔI/I_c から、DCM ではちょうど境界になる臨界インダクタンスに対する割合で求めます。同じインダクタンスで V_in,max も確認します。CCM 設計は高入力で境界付近か DCM に入ることが多く、表の境界負荷がその切り替わり点を示します。

漏れインダクタンスは二次側と結合していないため、そのエネルギーは出力に届きません。ターンオフ時にこのエネルギーが RCD クランプを充電し、漏れ電流が減衰するまでドレインを V_in + V_clamp に保ちます。クランプ損失は V_clamp/(V_clamp − V_or) に比例して増えるので、V_clamp を V_or に近づけると漏れエネルギーよりはるかに多くを消費します。漏れ電流は t_reset = L_lk·I_pk/(V_clamp − V_or) の間に減衰します。

コアの設計は行いません。コアが扱うべきものは、ピーク電流 I_pk でのインダクタンス L_m、すなわち飽和せずに蓄えるエネルギー ½·L_m·I_pk² です。コアサイズ、巻数、ギャップはコアメーカーのデータで決め、実測した漏れインダクタンスをクランプ計算に戻します。

設計手順

  1. 1入力範囲を決めます。AC 入力なら √2·V_ac,min ではなく、最小入力・定格負荷でのバルクコンデンサ最低電圧を入れます。
  2. 2D_max か V_or を選びます。V_in,max + V_clamp がディレーティングした MOSFET 定格に収まるか、出力ダイオード逆電圧 V_out + V_in,max/n が問題ないかを確認します。
  3. 3CCM ならリップル比、DCM なら L_m/L_crit を決め、V_in,min での L_m と電流を読み取ります。
  4. 4V_in,max の列で導通モード、ピーク電流、境界負荷を確認します。2 つのピーク電流のうち大きい方が電流制限とコア飽和チェックの基準です。
  5. 5漏れインダクタンスを見積もり、クランプの R、C、抵抗の定格電力、漏れ放出時間を決めます。
  6. 6½·L_m·I_pk² に合わせてコアとギャップを選び、実際の漏れインダクタンスを測ってクランプ計算をやり直します。

計算式

巻数比と最大デューティ
V_or = n·(V_out + V_f), D_max = V_or / (V_or + V_in,min − V_ds,on)
CCM の励磁電流とインダクタンス
P_in = P_out/η, I_c = P_in / (V_in·D), ΔI = V_in·D / (f_s·L_m), L_m = V_in,min·D_max / (f_s·r·I_c)
DCM と境界
L_crit = (V_in,min·D_max)² / (2·f_s·P_in), L_m = k·L_crit, I_pk = √(2·P_in / (L_m·f_s)), D₂ = I_pk·L_m·f_s / V_or
RMS 電流
CCM: I_p,rms = √(D·(I_c² + ΔI²/12)), I_s,w = n·√((1 − D)·(I_c² + ΔI²/12)); DCM: I_p,rms = I_pk·√(D/3), I_s,w = n·I_pk·√(D₂/3); I_s,avg = I_out, I_s,rms = I_s,w · I_out / (P_in/(V_out + V_f))
電圧ストレスと蓄積エネルギー
V_ds,pk = V_in,max + V_clamp, V_R = V_out + V_in,max / n, E = ½·L_m·I_pk²
RCD クランプ
P_clamp = ½·L_lk·I_pk²·f_s·V_clamp / (V_clamp − V_or), R = V_clamp² / P_clamp, C = 1 / ((ΔV_c/V_c)·R·f_s)
境界負荷と RHP ゼロ
I_o,crit = η·V_in·D·ΔI / (2·V_out), f_RHP = (1 − D)²·R_L·n² / (2π·D·L_m), R_L = V_out / I_out
クランプリセット時間
t_reset = L_lk · I_pk / (V_clamp − V_or)

計算例

初期値は 85–265 VAC 入力で、85 V 時のバルク谷電圧を 90 V としているので V_in は 90–375 V です。12 V 2 A、η = 85 %、65 kHz、V_f = 0.5 V、D_max = 0.45、CCM r = 0.8 です。巻数比は 5.89(V_or = 73.6 V)、L_m = 1.12 mH になります。90 V では一次電流がピーク 0.976 A、谷 0.418 A、RMS 0.480 A、二次はピーク 5.75 A、RMS 2.77 A で、そのうち 1.91 A rms が出力コンデンサのリップルです。375 V ではデューティが 16.4 %、谷が 0.035 A まで下がり、定格負荷でぎりぎり CCM で、約 1.85 A 以下では DCM になります。ドレイン電圧はスパイクなしで 448 V、V_clamp = 110 V を加えると 485 V で、650 V 定格の 80 % である 520 V に収まります。出力ダイオードの逆電圧は 75.6 V です。漏れ 1 %(11.2 µH)ではクランプ損失 1.04 W で出力の 4.3 %、リップル 10 % とすると 11.8 kΩ、13 nF です。90 V での RHP ゼロは 19.9 kHz なので、クロスオーバーは約 6.3 kHz 以下に置きます。同じ条件を DCM、L_m = 0.8·L_crit にすると 358 µH、一次ピーク 1.56 A、二次ピーク 9.18 A です。

よくある間違い

  • √2·V_ac,min を最小入力とすること。バルクの谷電圧はそれより低いため、低入力でデューティが設計値を超え、制御器の最大デューティに当たることがあります。
  • V_clamp を V_or よりわずかに高くするだけにすること。出力へ行くはずのエネルギーまでクランプが取り込み、損失が数倍になります。
  • 飽和を定格負荷のピークだけで確認すること。起動時や過負荷ではより高い電流制限値まで上がるので、その電流でもインダクタンスを保つ必要があります。
  • V_in,max + V_clamp を MOSFET 定格と直接比べること。クランプダイオードの順方向回復と配線インダクタンスで V_clamp を超えるオーバーシュートが生じ、ディレーティングの余裕はそのためのものです。
  • 出力コンデンサを負荷電流だけで選ぶこと。フライバックではリップル電流が I_out と同程度かそれ以上になり、リップル電流定格でコンデンサが決まることが多くあります。

よくある質問

CCM と DCM のどちらで設計すべきですか?

DCM はインダクタンスが小さく、出力ダイオードの逆回復も RHP ゼロもありませんが、ピーク電流と RMS 電流が大きくなります。CCM はピーク・RMS 電流を下げられ、電流が大きいほど有利ですが、インダクタンスが大きくなり、RHP ゼロでループ帯域が制限されます。実際の条件で表の 2 列を比べて決めてください。

V_clamp が V_or に近づくとクランプ損失が急増するのはなぜですか?

クランプが導通している間、漏れ電流は V_clamp − V_or で決まる傾きで減少し、その間は二次側もクランプへエネルギーを送り込みます。V_clamp/(V_clamp − V_or) の項がこれを表します。V_clamp = 1.5·V_or なら 1 周期あたり漏れエネルギーの 3 倍、1.2·V_or なら 6 倍を消費します。

式はどのように検証しましたか?

TI アプリケーションノート U-165(SLUA086)の条件をそのまま入力しました。入力 32–72 V、5 V 10 A、V_f = 0.8 V、MOSFET 電圧降下 1 V、70 kHz、n = 5、リップルはピークの半分(r = 2/3)、入力電力がノートの前提と一致するよう η = 5/5.8 です。結果は D = 48.3 %、ピーク 5.16 A、リップル 2.58 A、RMS 2.74 A、83 µH(ノートでは 80 µH に丸め)、境界負荷 3.33 A、ダイオード逆電圧 19.4 V、二次ピーク 25.8 A で、ノートの値と一致します。

なぜコアを選んでくれないのですか?

コア選定は材質、許容磁束密度と温度上昇、巻線窓、絶縁要求で変わり、パワーステージの値だけでは決まりません。計算機はコアが耐えるべきインダクタンスとピーク電流までを出し、その先はコアメーカーのエリアプロダクト (AP) とギャップのデータで進めます。

RHP ゼロはフィードバックループにとって何を意味しますか?

CCM でデューティをステップ状に増やすと、まずオフ時間が短くなり、励磁電流が追いつくまで出力へ流れる電流が一時的に減ります。これが右半平面ゼロとして現れ、利得を上げながら位相を遅らせます。負荷が大きく入力が低いほど周波数が下がるので、クロスオーバーは V_in,min・定格負荷での値より十分低くします。

計算結果は工学的な推定値です。データシート、シミュレーション、実測で設計を確認してください。

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